この場所で過ごす時間を、より豊かに
最近ホームパーティーでも、キッチンにいる人と作業をしながら、会話に参加していることが普通の光景になっていませんか?インテリアのトレンドには、間取りの変化が背景になっているものも少なくありませんが、キッチンが変化したことで、設備のトレンドも変わってきました。
キッチンが、ダイニングルームやリビングルームとひとつづきになった住まいが増えました。家の中で〝台所〟というスペースがはっきりと区切られ、女性ばかりが出入りするなどという風景は、すでに映画やドラマの中だけかもしれません。
こうした〝キッチンのオープン化〟傾向を後押ししたのは、第一に、共働きの核家族の増加です。家で過ごす時間は少しでも多く家族と触れ合いたい。そう思う人たちの願いが形になったのです。いかにも開放的なアイランド型キッチンに限らず、調理台やコンロ、シンクなどを一列に配置した壁付けのI型キッチン(写真)でも、ダイニングやリビングとの仕切りをなくして一体的な空間をつくる。そうすれば調理や後片付けをする人が孤立せず、場を共有することができます。家族だって、手伝いやすくなるでしょう。
キッチンを「単なる作業の場ではなく、集う場、コミュニケーションの場にしたい」という流れは世界的なものです。近年はヨーロッパのメーカーを中心に、リビングとの一体化を目指し、キッチンを家具として見せるようなデザインが多く提案されています。
キッチンは、他のスペースに比べても、コンロや換気扇、シンク、水栓金具と無骨な部品が多いもの。そんな設備たるキッチンを、リビングというくつろぎの空間に馴染ませるために、まず工夫されたのが素材です。カウンタートップ(天板)にはセラミックを使われることが増えました。ステンレスのクールな表情は、くつろいだり客を招いたりする空間にはそぐわないと感じる人が少なくないのでしょう。
セラミックが多く使われるようになったのは、製造技術が向上して、色や質感の表現の幅が広がったからでもあります。多様なインテリアに合わせたデザインが可能な素材というわけです。各国のメーカーが〝旬〟のキッチンを発表するイタリアやドイツの見本市では、扉にもセラミックを採用してキッチンをひとつのオブジェのように見せるメーカーや、石調の天板にナチュラルな木扉を組み合わせるメーカーも。どちらもインテリアとの馴染みの良さを意識しています。
天板に選ばれる素材の変化により、カラーシンクも増えています。リビングに置く家具と同じように扉を分割したり、天板の厚さを変えて色のボリュームを調整したり、パネルのおさまりを工夫したり、といったディテールの美しさを追求しているのも近年のキッチンの特徴です。
キッチンの「家具化」の流れには、空間を用途で区切るのではなく、まるごとの居住空間として、そこで過ごす時間をより豊かにしたいという人々の思いが表れています。設備であっても、キッチンを選ぶポイントは機能だけではないのです。